思いがけないタフなファンタジー

  『星の王子さま』サン=テグジュペリ(新潮文庫)

 確かむかーし、この本を女の子の誕生日プレゼントに送ったような覚えがあるんですがー、錯覚かしら。

 「ラ・プチ・プランス」。
 「プチ」は「小さい」。「プチ家出」なんかの「プチ」ですね。「ペチコート」なんかの「ペチ」でもあります。ついでに、日本で最も有名な汎用的犬の名前「ポチ」も、この「プチ」が語源とされています。

 エンジンの故障でサハラ砂漠に不時着した飛行士が一人で絶望していると、子供に声をかけられます。
 それが星の王子さまで、王子と羊とバラだけが住んでいる小さな小さな星からやってきたんですね。6つのヘンな星を巡る話が前半で、後半は地球で、ヘビ、きつね、そして遭難した飛行士と友達になるという話であります。

 かつて私が読んでいたのは岩波書店から出ていた内藤濯・訳のでした。
 数年前に日本での翻訳出版権が切れて、一気にどっと新訳が出ました。上記の新潮文庫版もその一つであります。

 むかーし、私がこの本をガール・フレンド(だったと思いますが、違っているかも。ガールフレンドになって欲しいな欲しいな女の子、だったかも知れません。)にあげた時は、私はこの本をどう理解していたのでしょうねー。

 この度読み直してみると、何といいますか、叙情の後ろにひどくペシミスティックなものを感じるんですがねー。
 もっともそれは、そもそも人生がそうであるからだと言えば、その通りではありますけれども。

 なるほど、そう考えると、このお話は割とタフなファンタジーだなと言う気がしますね。ひょっとしたら、ちょっと軟弱かつあっさり系のメイドインジャパン・ファンタジーとは一線を画するような。

 ともあれ、人生の長距離走の折り返しを既に過ぎて少々久しくなった今回の再読では、昔のなーんにも考えていなかった私よりは、おそらく筆者サン=テグジュペリよりの理解ができたと思います。

 そして今なら、ひょっとしたら、好きな女の子にはこの本は、プレゼントしないかな?
 ……いや、それはまた、別の話かも、知れませんが。

 (そう言えば、これも今は昔。付き合っていた女の子に、太宰治の『お伽草子』の「浦島さん」を薦めたら、それを読んだ彼女から「別れましょう」と言われたこともありました。きっと、私の性格的な問題のせいだとは思いますが。)


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今朝秋やつましきことをせんとして

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 さすがに朝夕は凌ぎやすく、
 さてこうなると、
 今まで暑さに対して文句ばかり言っていた我が身が振り返られ、
 それに加え、
 ひょっとして秋になればいいことがあるかも知れないと、
 もう何度とも数え切れない過去の空しく裏切られた期待を、
 この度もお気楽に思い、
 やはり背筋を伸ばして生きようと、
 束の間の反省をするわたくしでありました。

                                秀水


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「恋愛小説」ナンバーワンとは

  『夜は短し、歩けよ乙女』森見登美彦(角川書店)

 少し長く夏休みを取りましたら、結構ヒマになりまして、久し振りに近所の図書館に行ってきました。
 クーラーの利いた館内で、ぶらぶらといろんな本を見ていたのですが(落ち着いて「本を読んで」はいません)、以前知り合いの女性から薦められた覚えのある本がありまして、それで借りて帰ったのが冒頭の本であります。

 「オビ」には、

  ・面白い!なんて面白いんだ!(松田哲夫・編集者)
  ・大傑作。文句なしに今年の恋愛小説ナンバーワン(大森望・文芸評論家)
  ・大変愛らしゅうございますの。(豊崎由美・書評家)


と書いてあるのですが、まず編集者がオビのコピーを書くってのが、私にはよくわかりません。この編集者は、なんか有名な方なんでしょうか。
 後のお二人は、少し前に流行った(そして最近また、そのシリーズ本を出版なさった)『文学賞メッタ斬り』の人ですね。

 で、読んで、どう思ったかというと、まーそれなりに感じるところなきにしもあらずなんですが、例えば稲垣足穂の文体模写のような書きぶりは、なかなか才人だなと思ったりもいたしました。
 しかし、これをもって「今年の恋愛小説ナンバーワン」と言い切るコピー(もっともコピーはもとより宣伝ですが)には少し首を傾げましたが、どんなものなんでしょうね。

 で、今度は、この作品よりの立場に立って考え直してみますと、そもそも私が「恋愛小説」の秀作として頭に浮かべるのは、例えば谷崎潤一郎の『春琴抄』であり、例えば漱石の一連の「三角関係」小説であり、比較的近いところでも、水村美苗の『本格小説』であったりと、そんな小説などであるわけですね。
 で、そんな歴史上の名作や傑作と比べて判断するのは、そんな比較をするヤツの方が悪いとの指摘を受ければ、なるほどその通りでございますと思わざるを得ません。

 と、そんなわけで、私にはこの作品を批評する資格があまり無いことが分かりました。

 いえ、そう考えてみますと、上記にも触れた足穂の『一千一秒物語』を彷彿とさせるパスティーシュと作品舞台は、我が青春の「京都」をやはり懐かしく思い出させてくれるものであるなと、わたくしは、改めて思い直したのでありました。


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遠雷に水を打つ手をとめにけり

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 昨日、今日と、

 また戻る残暑もありましょうが、

 束の間の、「秋の気配」ですね。

                           秀水


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「ツチヤ教授」と一緒にPISAテストを考える(その2)

  『ツチヤ学部長の弁明』土屋賢二(講談社文庫)

 またまた、前々回からの続きであります。
 前々回までの内容ですが、ツチヤ教授の究極の理論性でもってPISAテストを考えてみようと、わたくしはまず、考えたのでありました。
 しかしその後、急速に書き続ける意欲を失いまして、でもまー、せっかく書き始めたんだから、一つだけ具体的に問題を紹介して終わっておこうということで、前々回の最後に数学の問題を一つ紹介いたしました。

 今回はその、「解決編」であります。
 (えー、設問については、すみませんが、前々回の内容をご覧おきいただきまして)正答例から行きます。

 正答例は、

 「B。Bは円だが、AとCは円から取り除いた形だから」

などとなっているそうです。

 ……、うーん。
 「B」はともかく、正答例の「理由」の文章にはなにか違和感を感じませんでしょうか。私はとっても感じたんですけどねー。

 ツチヤ教授は、この違和感の正体について(別に私の違和感についてだけではないでしょうが)、こんな説明をなさってくれています。ちょっと長いですが、引用してみます。

 たとえば、「どうして彼は将棋が一番強いか」と問われて、「だれにも負けないから」と答えるのは説明になっているだろうか。「一番強い」ということは、「だれにも負けない」ということに意味の上で等しい。だから、「だれにも負けないから一番強い」という説明は、「だれにも負けないからだれにも負けない」という同語反復にすぎず、説明になっていない、という考え方もなりたつだろう。
 面積の大小を問うこの問題についても同じことがいえる。「ある面積を取り除いた」ということは、「面積が小さくなる」ということに等しいという考え方もありうる。「AとCはBからある面積を取り除いた形だからBより面積が小さい」という説明は、「AとCはBより面積が小さい形だからBより面積が小さい」というに等しいと考えることもできる。つまり、AとCを「Bから取り除いた形」とみることは、「Bより小さい形」と見ることに等しいと考えることができる。この考え方に立てば、これは説明になっていないとか、この説明は自明なことを述べているだけだと感じられるのではなかろうか。


 どうですか。
 論理性とは、こんな文章のことを言うんじゃないでしょうかね。
 ところで、ではこの問題の正答の「理由」としてどんな説明なら、すとんと腑に落ちるのでしょうか。これもツチヤ教授は書いてくれています。いわく、

 「きわめて自明だから。」

 私は改めて「ツチヤ教授=土屋教授」と、学問というものの偉大さについて、大いに拍手をしたのでありました。(ツチヤ教授の答えはPISAテストでは不正答だそうです。)

 最後に蛇足ながら、私の付け足し考察といたしまして、上記の正答の違和感は、たぶん言葉の翻訳の問題が原因であると私は思います。その理由については、ツチヤ教授のように見事に一刀両断の論理展開はできませんが、私の直感として。


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座してみて耳澄ましみて熱帯夜

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 寝苦しさに、目覚め、

 ……まー、こんな感じの夜が続いています。

 もう少し、でしょうね。

                        秀水


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「ツチヤ教授」と一緒にPISAテストを考える(その1)

  『ツチヤ学部長の弁明』土屋賢二(講談社文庫)

 前々回からの続きであります。
 ツチヤ教授の究極の理論性でもってPISAテストを考えてみようと、わたくし、考えたんですね。その顛末を少々。

 まずPISAテストというのは、15歳を対象にした国際テストでありまして、「社会に参加する上で必要な基礎的能力」をテストするものとなっています。具体的には「読解力」「数学」「理科」に関する能力の問題です。

 本書においては既にここまでで、ツチヤ教授がこのテストの基本的コンセプトに対して疑義を表明されています。確かに「社会に参加する上で必要な基礎的能力」という定義の「不可能性」は、私としても大いに納得できるところであります。

 と、書いたところで、実は私は、ツチヤ教授なら当然気づいている事柄(いえ、多くの良識ある人びとも気づいているであろう事柄)に、ここで初めて気づいてしまったんですね。
 それは一言で言えば、

 「人間の作るすべてのテストは、人間の能力のごく一部しか測定できない」

ということであります。

 そんなの、今さら当たり前、ですよねー。
 いえ、わたくし、マスコミなどの報道ぶりにちょっと基本的な判断能力を歪めてしまったみたいで、このテストに人々がきわめて重要な意味を持たせていると思ってしまったものですから。

 そんなこと、ないんですよね。
 人々は、このテストが測定する人間の能力なんて、きわめて一部のものにすぎないと、十分理解なさっているんですよね。

 ……、という風に考えると、以下の内容が一気に何か「大人げない」ように思えてきて、ちょっと書き続ける意欲を失いつつあるんですがー。
 まー、せっかくですから、具体的な設問をひとつだけ紹介してみますね。数学の問題です。

 「次の図形のうち最も面積が大きいのはどれですか。その理由も説明してください。」

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 えー、回答は、また続きに。
 よろしければ、お考えおきください。


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食べ終えてまだ日も高し冷奴

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 じゃ、そろそろビールの次にしようかなって感じの時に、
 ふと戸外を見る。

 うーん、勝手に夏休みにして、ホント、よかったなー。


 という句です。
 ……失礼しました。

                            秀水


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まったく「まったく今の若い者は…」って

  『ツチヤ学部長の弁明』土屋賢二(講談社文庫)

 思い起こしてみれば、ツチヤ教授のツチヤ節も長いですね。
 文春文庫から第一作目が出てから、もう十年以上にもなりますものね。

 最初は面白かったですねー。理路整然とした論理展開が、その理路整然故に拗くれ返る破壊力に、本当に腹を抱えて笑いましたものねー。
 しかし、少々、最近は「マンネリ」ぎみかな、と。いえ少々、申し訳ないながら。

 私はいつも文庫本ですが、新しいのが出るとつい手にとって買ってしまいます。
 この「つい手を取らせる」力というのも、そう考えると実に立派な「芸」ですよね。
 うーん、すばらしい。

 今回も、そんな一環みたいな感じで本書を読みましたが、中にちょっと面白いことが書いてありましたのでご紹介しますね。

 『社会人がもつべき最低限の知的能力』というエッセイなんですね。
 このエッセイには、時々話題になっている、特に最近はその「成績降下」が注目されて、各界から日本の未来を憂えられている、あるいは教育現場を批判・断罪する格好の材料となっている、「経済協力開発機構」の行なっている「PISAテスト」が、取り上げられています。

 このテストのこと、私も新聞やテレビでニュースを見たことが確かにあります。
 そして、そんなニュースのトーンは、かつて成績良好であった日本の若者の知力が、ここ数年、世界の中でどんどん他の国に抜かれつつある、といったものであったように思います。

 だけどよく考えてみれば、そのテストが一体どういったものか、はっきり言って、私は全く知らないで「今の若い者にも困ったものだなー」と思っていたのですが、それってきっと、私だけではないですよね。ですよね。
 PISAのテストに、どんな問題が出ているか知っている人って、どれだけいるでしょうか。

 今回、このエッセイを読んで私が思った、そして、反省したことのひとつがそれであります。
 自分で実際に確認もしないで、他人の意見を鵜呑みにして、そして、批判することの愚かさと恐ろしさ。
 (それに、「今の若い者は…」というフレーズは老化の始まりだとは分かっていながら、つい手軽に取ってしまいかねない意識ですものねー。これこそ本当に困ったものです。)

 なんだか「重い」話なのかなと思っちゃいそうですが、そこはそれ、「ツチヤ節」の「芸」ですから、PISAテストについて、とっても面白く書いてくれています。
 そのうちの少しだけ、紹介してみますね。

 ……ってところで、続きます。


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