免許証誤交付記事に漱石を思う

 ふっと考えついたことをちょこちょこと書いたり、ネットの記事をちょっと貰ってきたり、そんな文書が幾つか入っている、まぁ、ゴミ袋みたいなファイルが、私のパソコン用のスティックのメモリーの中にあるのですが、先日ぼんやりとそれを見ていると、こんな記事が出てきました。

 兵庫県警は11日、兵庫県明石市の明石運転免許更新センターで、運転免許証を作成する機器が壊れ、違反歴があり青色地の帯が入った免許証を交付するはずの64人に、誤って無事故無違反者に渡す金色地が入った免許証を交付したと発表した。県警によると、64人のうち63人は正規の免許証と交換したが、1人は交換を拒んでいる。この1人に交換に応じさせる強制力はなく免許証は有効だが、ゴールド免許としての扱いは受けない。

 これは去年の11月、ネットから貰ってきた記事です。
 改めて読みますと、なぜ私はこんな記事を取っておいたのかと思いますが、たぶんその時の私の興味の中心は、この1/64に当たる人はどんな人なんだろうということだったと思います。

 この方を弾劾しようと思っているわけではありません。純粋な興味であります。
 「ゴールド免許としての扱いは受けない」とありますから、たぶんかなり下手からお願いに来たであろう県警の方達の依頼を、今更拒否したところで仕方ないでしょうに、ねぇ。
 きっと、ここは一つ恩を売っておく方がいい、などとは思わない方なんでしょうね。

 過去に、よほど官憲に対し恨みを持つことがあったのかも知れませんね、「逮捕歴がある」と書いてあったりますから。むしろ逆に、逮捕歴のある人の63/64もが、一応県警の求めに応じたという、こちらの数の多さの方を「奇」とするべきなのかも知れません。

 ……思い出しました。
 なぜこの記事を取っておいたかですが、ちょうどその頃、夏目漱石が博士号を返上した「事件」の文章を読んでいたからでありました。

 1911年(明治44年)に起きたこの「事件」は、一時期けっこう世間を騒がせ、漱石に対する共感反感等も生みつつ、結局文部省は漱石に博士号を贈ったつもり、漱石はそんなものは返したつもりという辺りに落ち着いた事件でありました。
 ただ、この件の漱石についての論評は、私が読んだ範囲ではさほど切れの良いものはありませんでした。まぁ確かに、漱石研究にとって、さほど重要な事件でもなさそうではありますが。(評論家の関川夏央は、この事件をかなり遠回しに「大逆事件」と結びつけているようですが。)

 ともあれ、現代の免許証の誤交付と明治時代の漱石の博士号辞退事件との間に、全く関係するものはないと言われれば、もちろんその通りであります。
 しかし、どんな方なのか全く想像の及ばない1/64の方について、私がなんとなーい、かすかな「共感」めいたものを感じてしまうのは、もちろん私の無責任な立場故のものではありましょうが、たぶん私が、漱石のように振る舞えないのはもちろん、この「1/64さん」のようにも振る舞えないだろうと思うからでありました。
 
 偏屈者になるというのもなかなか大変だと、仕事上の人間関係のストレスというお定まりの現代病を煩う身の一人といたしましては……。


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降るたびにつぼみはぐくむ梅の雨

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 「レイニー」な日が少し続いていますが、
 この時期を通して、一歩ずつ、
 暖かくなっていくんですよねー。

                              秀水


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「天才」赤塚不二夫の陰と光

  『赤塚不二夫のことを書いたのだ!』武居俊樹(文春文庫)

 赤塚不二夫が亡くなってもう3年以上にもなるんですね。
 日本の児童漫画を言葉のままに「クリエイト」したと言っていい人々、それは手塚治虫から始まって、石ノ森章太郎、藤本弘、横山光輝そして赤塚不二夫など、私もかつて大いにわくわくしながらむさぼるように読んだ漫画の巨匠達が、ここ数年の内に、櫛の歯が零れるように亡くなっていきます。

 世代交代は世の常といえばその通りでありますが、オールドファンとしては、正直淋しいところがあります。
 そんな赤塚不二夫のことを、「少年サンデー」の編集者であった筆者が書いた本です。

 私はとても面白く本書を読んだのですが、私が少年時代に、人気漫画家としての赤塚不二夫に対して抱いていたイメージ、そして十代後半から二十代の私が同じく抱いたイメージなどが、彼のすぐ側で仕事を同じくしていた筆者によって描かれたものと(当たり前ながら)微妙に違っていたのが、私にとって本書の感想のうち、最も感慨深いものでありました。

 それは一言で言えば(そして私なりのバイアスの掛かった言い方で言えば)、天才的な漫画表現者も日々苦悩を負っているということであります。
 ただ同時に、赤塚不二夫の才能の質は、そんな自分をも笑い飛ばすところにあったということも、本書で大いに知りました。

 本書の中に、44歳の赤塚がテレビの「家族対抗歌合戦」で、水兵の扮装で歌った軍歌『月月火水木金金』の替え歌の歌詞というのが書いてあります。こんなのです。

  朝だ夜明けだ 水割り飲んで 今日も暇だよ 仕事がないぞ
  漫画書きたい 連載こない 過去の男だ 仕事がしたい 月月火水木金金


 現在でこそこういう「自虐的」ギャグは多くのタレントが用いるものでしょうが、まさにそんなギャグの濫觴といって相応しいと思います。
 そして私がつくづく思ったのは、あの天才赤塚不二夫でさえ、44歳で連載がこなくなっていたということでありました。

 世の中には様々な職業世界がありますが、その多くの世界は、永劫回帰のように胸を抉るような厳しさ苦しさを内包しています。
 しかし同時に、その世界で戦い傷つき、そして去らざるを得なくなった人々のことを、やはりある種の敬意と共に、決して忘れることはないのだと、私はこの度の読書でつくづく思うものでありました。
 そしてこんな感想こそがきっと、赤塚不二夫が一番に笑い飛ばす絶好の対象であるということも。


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春色のまず食卓に香りけり

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 買い物に行くと分かりますよね。
 間違いなく、
 次の季節が、
 待ってくれている、と。
                         秀水


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現代流行歌の話(その2)

 前々回の続きであります。
 前々回書いていたのは、下記のようなフレーズの「現代流行歌」(もはや現代とは呼べないような1999年の歌ですが)を初めて聞いた時私は驚いて腰を抜かしてしまった、というところまで語ったと思います。

  ♪もしもうつむいて 倒れかけたら
   泣き虫な私のそばで泣いたらいいよ


 さて、その続きです。

 うーん、こんなのって「男」じゃないですよね。
 と、のっけからどこか男女差別的(?)な文言を書きましたが、「男のくせに」「男だろう」なんて言葉には反発して、大概軟弱な半生を送ってきた私ではありますが、それでも女の子からこんな言葉をかけられるような状況は、想像だにできないという人生を送って参りました。
 でも、そんなことないですかね。
 しかし、実は私の驚きはさらにここからなんですね。

 私は唖然としつつこのフレーズを何度か口ずさんでみたのですが、そのうちになんだか涙が出そうになってきたではありませんか。
 自分でもビックリして、なぜこんなふうに感じるんだろうと考えていたら、とうとうこんな「思想」に思い至りました。

  「私は本当は誰かにこのように言ってほしかったのだ。」

 くり返しますが、私は誓って、今までこんなことを考えたことはありませんでした。
 でも本当は、無意識な部分の私は、間違いなくこんなことを思っていたんですね。

 ……やー、今回は本当に「目からウロコ」ではなく、心の殻が一つ剥けたような気がしました。うーん、いい勉強になりました。

 実はこの歌詞は、ある講演会で講師の先生がおっしゃっていたんですね。
 その先生は、こういった流行歌の世界でも、「歌詞」になかなか優れたものが見あたらないともおっしゃっていました。
 なるほど、優れた言語感覚というものは、どこにでもある、一朝一夕に生まれるというものではないのですね、やはり。


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如月や寿司かぶる日も菓子の日も

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 「菓子の日」というのが、
 ……うーん、
 もうひとつ、こなれた表現でないのが……。

                          秀水


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「現代流行歌」の話(その1)

 現在の日本の流行歌について、これはもう自信を持って言えるのですが、私には全く知識がありません。見事に何も知りません。
 私のはやり歌に関する知識は、約30年前に止まったままであります。

 そして、しばしばそんな方がそうであるように、つまり自分がよく知らない事はそもそも大した価値はないのだと考えるという、その「弊害」に私も見事に陥っているのですが、私は密かに、そんな流行歌の歌詞に表現されている「感性」など、どうせ目新しい物など何もないだろうと高をくくっていたのであります。
 ところが、ちょっと違っていましたねー、という話を以下に。

 ただはっきり言うと、現在の流行歌とは言えない、……でしょうね、やっぱり。
 だって、その歌は1999年に作られた歌でありますから。

 (おい、全然現代の流行歌と違うやないかっ!)

 いえ、待ってください、しばし。
 まー、私にとっては、そのくらいの「時間差攻撃」をしたあたりが、ちょうど刺激が適度に薄められて理解力の及ぶ範囲になりますので、そこんところ、よろしくお許しください。
 ということで、こんな歌詞の一部なんですがね、私が腰を抜かしたのは。

  ♪もしもうつむいて 倒れかけたら
   泣き虫な私のそばで泣いたらいいよ


 この歌詞、ご存じでしたか。
 これは「花*花」というグループ(後で調べてみたら、このグループはかつてすでに一度解散して、また最近少し活動をなさっているそうです)の『あーよかった』という歌の一部です。

 ざっと前後の状況を説明しますと、この歌詞は女の子が男の子に向かって語っている恋の歌なんですね。女の子が男の子に、私のそばで泣きなさいって言っているわけです。

 しかし今の男女の関係は実際、こんな感じのものなんでしょうか。
 私は初めてこの歌詞を読んだ時、一瞬何が書いてあるか理解ができなかったです。
 そして何とか意味が分かってからは、唖然としてしまったのですが、これって唖然としませんかね。しないのかな。

 つまり、こんなことを女の子から言われるという状況は、少なくとも私の育ってきた環境の中には全くなかったということですが、うーん、時代からの激しい疎外感を、私はこの時初めて心底から感じたのでありました。

 というふうに私は、全くあっけにとられてしまったのですが、えー、さらに話は進みます。
 あ、次々回に、続きます。すみません。


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春立つを濡れて待ちける蕾かな

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 立春、ですね。

 ……うー、寒いっ。
                        秀水


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だから「自戒」なんですって……(その3)

 えー、同じテーマで、三回目になりました。
 少し前に、わたくしのブログを愛読してくださる、数少ないありがたい読者様から、「続きもんばかり書くな」とのご指摘をいただきまして、わたくし大いに反省いたした次第でありますがー、えー、まー、ひらにお許しを願って、第三回目であります。
 もう、前回までの内容のまとめはしません。一気に行きます。

 ……さて私が思ったのは、授業を聞いていてもほとんど質問をしない生徒達というのは、本当に困ったものなのかということであります。

 もちろん質問をしない原因の決して少なくない部分に、生徒達が授業をちゃんと聞いてないんじゃないか、あるいは彼らサイドから言えば「授業がおもんない」というのがありましょうが、それはさておき、私のこの度の社会人向け講座を何度か聴いた体験から鑑みますれば、それは、生徒学生諸君が、目上の方に失礼があってはならないと言う、実に深い思いやり精神や、すがすがしい慎みの心・謙譲精神に満ちているということではないかという発見であります。

 このことに思い至った時、私は、「はしたなさ」の自覚とか「もののあはれ」の源泉とは、そういった若者の心の佇まいのことを指すのではないだろうかと、ほとんど感動しかかりました。

 急増する老人層は、そうでなくとも現代日本社会の諸問題の縮図でありますが、そんな人々、つまり私などが、簡単に「学び直し」といい、「向学心」といい、社会人講座に続々と繰り出すというのは、誤解を恐れずに言いますならば、ひょっとしたらかなり何か、大きく間違っているんじゃないかと言う気が、この度いたしました。

 そう考えると、大人や年寄りの厚かましさを表す事例には、全く事欠かないと言うことにも気づきました。
 青少年は、過ちを指摘されても素直に聞かないと言われますが、大人や高齢者は、過ちを指摘されると、その場ですぐに攻撃的に「切れる」ではありませんか。
 これ以上、私達の世代をのさばらせておいたら、実際とんでもないことになるんじゃありませんかね。

 もちろんもちろん、もちろんこれは、自戒であります。誤解なきよう。(つまり、すぐに攻撃的に切れたりなさいませんよう。ひらに。)


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