表現に重点を置いた漫画評論

  『手塚治虫の冒険』夏目房之介(小学館文庫)

 この著者は、言わずとも知れる漱石の孫ですね。漱石関係の文章なんかも書いていらっしゃいます。
 でもこの人はそもそも何やさんなんでしょうね。いろんな事柄に対する文章をお書きのようですが、そんな中で、漫画評論については、結構有名であると僕は思ってるのですが、実際はどうなのかよく分かりません。
 ただ、その漫画評論の部分が、国語の教科書に取り上げられたと言う記事を、確か新聞で読みました。

 えー、そもそも漫画評論を長く読んだことがなかったので(昔、鶴見俊輔なんかが書いていたのを読んだことがあります)、というよりそもそも文芸評論を含めても、現代の最前線の評論がどのようなものであるのか、実はよく分かっていません。

 だから、この夏目房之介の漫画評論がどの辺に位置づけられるのかよく分かりませんが、論じるにあたって、表現面に重点を置いて行なっている本書は、僕としてはその出現を「待ちかねた」という感じで、とても良かったと思います。つまり、ストーリーやメッセージより、コマと描線を重視するわけですね。
 例えば、白土三平の漫画のこんな一カットを取り上げて、下記のように述べています。

夏目房之介白土三平

 蛍火という女忍者が鞭で着物を破られ、胸がみえるという場面にも、独特のエロティシズムがあった。ここで象徴的なのは、着物や刀は戦闘のためのもので、ほかの忍者を描く描線と変わらないけれど、あらわになった胸だけが柔らかい。なんかせつないような気にさせられる。暴力的な描線との対比をみせながら、柔らかい描線が悲劇的に断ち切られて、侵犯されるエロスみたいな感じがする。

 こういった表現への着目は、現在では割と当たり前なんですかね。
 上述の鶴見の本なんかには、こういった分析はなかったように思いますね。でも当たり前だけど、何が言いたいのかもさることながら、それをどう表すかは非常に重大な要素であります。
 というふうに読んでいくと、結構面白い漫画評論でした。

 ただ、なんだかヘンな感じもするんですが、筆者が、今度はこの作品は何が言いたいのかという、「表現」に対して「内容」に触れたとき、うってかわって、かなり僕としては納得しがたいヘンな感じの評価をなさっていました。
 なんか、ちょっと、そのへんの連動の仕方がよくわからなかったのが残念です。


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テーマ : 読書記録 - ジャンル : 小説・文学

コメント

Re: 夏目房之介

 コメント有り難うございます。
 もはや現代の日本で、最も世界に発信している分野が、アニメ並びに漫画ですものね。
 この分野こそ、ことごとく「在野」の草の根の文化ですし、そのことを我々は誇りに思うことができますね。
 大いに頑張って欲しいです。

夏目房之介

 この本、じつは先月ブックオフで105円の価格がついていたので、買いこみました。夏目房之介は、わりと好きな漫画評論家です。
 白土三平も好きな漫画家。
 このシーン、小学生時代に『忍者武芸帳』で目にしたのですが、けっこう強烈な印象でしたね。エロチックですが、猥雑ではない。白土三平は率直なのですね。だから、さばさばしている。おとなになったら、こういう世界もあるのだ、という印象だったと思います。
 

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