漱石書簡中の「白眉」の手紙に圧倒される。

 前々回から夏目漱石の書簡の一部を紹介しています。
 筆まめな漱石には、たくさんすばらしい手紙が残っています。
 その中でも、「白眉」とされるのが、次の手紙です。
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 (前略・原稿用紙にして五枚分くらいの文章があって)
 牛になる事はどうしても必要です。我々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。僕のやうな老獪なものでも、ただ今牛と馬とつがつて孕める事あるあいの子位な程度のものです。
 あせつてはいけません。頭を悪くしてはいけません。根気づくでおいでなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知つていますが、花火の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。それだけです。決して相手を拵らへてそれを押しちゃいけません。相手はいくらでも後から後からと出てきます。さうして吾々を悩ませます。牛は超然として押して行くのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。文士を押すのではありません。
 これから湯に入ります。

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 最後の「これから湯に入ります」というところが、何とも言えずいいですよねぇ。
 この手紙は、大正五年八月二十四日(この年の十二月に漱石は死にます)に、晩年の弟子であった、芥川龍之介・久米正雄の連名宛に出されたものです。

 実は漱石は、筆まめだけじゃなくて、人に対する面倒見もとてもいい人で、若い頃から漱石を慕って多くの弟子がいました。ところが、その弟子達が、まぁはっきりいうと、できのあまりよくない連中ばかりだったんですね。そんな中で、晩年に慕ってきた芥川達に対して漱石は、以前の弟子と異なった大きな期待を持っていたわけです。

 そんなこともありますが、それはともあれ、この手紙は名文ですね。
 若い才能ある後輩に対してあふれるような愛情を持って書かれています。
 カッコいいですね。ステキですね。シビレますね。
 この手紙はいうことがありません。最高。




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テーマ : 読書記録 - ジャンル : 小説・文学

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