自殺者を生み続けるシステム

  『幽霊人命救助隊』高野和明(文春文庫)

 知人に勧められて、上記の小説を読んでみました。
 こういう小説のジャンルって、何というんでしょうかね。裏表紙に書かれてある宣伝文(と言うんでしょうか)には、「傑作エンタテインメント」とあります。
 ただ、私のイメージの「エンタテインメント」とはちょっと感じが違います。
 かなりバイアスの掛かった言い方ですが、ずっと真面目な、かつ地味な小説という感じがしました。

 お話は、ほぼタイトルの意味するままに、自殺して亡くなった4人の男女の幽霊が、「神」に命じられて、これから自殺を企てる人々のレスキューをするという話で、なるほどこんな風にまとめてみると、「エンタテインメント」という感じはしますよね。

 結構長い小説です。文庫本で600ページほどもあります。
 しかし、想像するようなアクションもアドベンチャーもあまりありません。(読めば分かるのですが、自殺企図者を救助する方法が、考えようによってはとってもコメディアスな方法なんですね。)
 彼らは多くの自殺者を救助していく過程で、畢竟人はなぜ自殺をするかという原因究明に乗り出して行かざるを得ず、そしてそれが、私が上記に書いた「真面目」「地味」に繋がっていきます。

 つまり、現代日本人が自殺する原因というのは、当然ながら、現代日本国家の持つもっとも先鋭的かつラディカルな社会の歪みの現れであるわけです。

 自殺実行の最後の引き金は、ほぼ100%そこに「鬱状態」があるものの、至るプロセスは千差万別であり、しかしまた、きわめて類型的とも言えます。
 その共通項をおおざっぱにいえば、「ストレス」と「お金」であり、それを抱え込む側(自殺企図者)に共通する性癖は「勤勉・真面目」であります。

 ただここまでの解説なら、マスコミなどですでに幾度となくコメントされている内容でありましょう。
 しかし本書は、長いお話の終盤あたりから、「お金」を巡る自殺企図者の原因を追求していく中で、日本という国の経済のあり方そのものが、たえず自殺者を生産し続ける原因となっていると言うことを、実際の資料を話に組み込んでいきながら、明快かつきわめて高い説得力で述べていきます。このあたりは、実に圧巻でありました。

 それは説かれてみれば当たり前とも思えることで、年間三万人もの人々が多年にわたって自殺し続ける原因が、個人の責任や資質だけに求められてよいわけがありません。
 「日本人は真面目で勤勉だから」などの言い回しの後ろに隠れている国家体制の暗部の存在と、浅薄なマスコミなどの知識だけに踊らされてはいけないということを知ることが、本書を読んでの、私の第一の感想でありました。

 ねっ。けっこう真面目な本でしょ。


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テーマ : 読書記録 - ジャンル : 小説・文学

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