歯医者がこわい!

 先月の初めころ、車の運転をしながらガムをかんでいたら、突然歯の詰め物がポロリと取れました。
 あ……、と思わず声に出して、私は、とうとう来たかと思いました。
 実は少し前から、どうも歯の調子が良くないとなんとなく感じていたんですね。

 歯は、痛いとかの自覚症状がなくても定期的に検診に行かねばならないとは、いちおー、知っていたんですけれど。私の子供たちも、小さいころから女房が指示してそうしていましたし。
 歯以外の病気の場合は、もちろん病気の種類にもよるでしょうが、放っておいて自然治癒するものも少なからずあるが、虫歯は決して自然治癒しないなんてことも聞きます。

 でもねー、……でも、いやなんですよねー。コワいんですよねー。
 歯医者に行くことを想像しただけで、私は、自分が紛うことなき弱虫であることを自覚します。
 私は歯医者がこわい!
 だって小さかった頃、歯医者の治療がどれほど痛かったか、思い出すだけでほとんど眩暈がしそうであります。

 だから今まで、定期検診にもずっと行きませんでした。
 検診時期ですよーと、お知らせのはがきが来た時も、横目でちらりと見て知らんふりを決め込みました。
 でも一方で、いつかは歯医者に行かねばならないだろうという悪夢のような思いは持ち続けていました。そしてそれがやってきた時、私の歯は一体どうなっているだろうか、と。

 恐怖がさらに恐怖を生み出し、もう理屈とかそんなのは関係なし、とにかく歯医者には絶対に行きたくないという堅い真黒な感情の芯のようなものが、わが心中にはできていたのでありました。やれやれ。

 ……そして、冒頭の歯の詰め物ポロリ事件が起こったのでありますが、以下は、もはや述べるに足ることはあまりありません。

 私はあれだけ嫌がっていた歯医者に、一か月で8回ほど通い、詰め物を戻してもらい、歯石を取ってもらい、すべての歯のレントゲンを当てて分かった、まだ軽い程度ですんだ虫歯を治してもらい、その間、もちろん麻酔をしてのことであったからですが、これっぽっちも治療の痛みはありませんでした。

 しかし私は、今回のことで我がトラウマから解放されたかというと、ほとんどされていない自分に気づくのであります。
 私は、あの歯医者独特の患者椅子の上で治療を受けながら(客観的に言って、ちっとも痛くない治療を受けながら)、最後まで両手に持ったハンカチを引っ張り強張ったままでいました。

 月日が幾らたっても、肉体から離れないのは強烈な痛みの記憶であることを、この夏、よく考えれば情けなくも、わたくしはつくづく感じたのでありました。


にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

コメント

No title

初めまして。短歌や自由俳句、外国語俳句などを創作しているとしひらと申します。書道もしています。現在ブログ「短詩書房 Peace With Poem」にて作品を発表しています。見に来て下されば嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)