少々無理ある「正伝」かなとは……

  『つかこうへい正伝』長谷川康夫(新潮社)

 インターネット上の新刊・古書書店をうろうろしていたら上記の本が出てきたので、おっ、と思いました。
 ささやかながらわたくしも、かつて少しだけ演劇青年だったことがありました。

 本書のタイトルの下に「1968-1982」と書いてありますが、私がリアルタイムで知っていたことも後に知ったことも含め、この時期の小劇場演劇におけるつかこうへいの圧倒的な存在感は、おそらく日本中の演劇に興味を持つ青年たちに、彼と同時代にいることのワクワクする並走感をもたらせたはずです。
 思い返せば、とにかくすごかったです。

 さて、そんなつかこうへいの「正伝」と銘打たれた本書を買いました。560ページにも及ぶ大著です。
 で、読んでみたのですが、まず「正伝」と呼ぶには少々無理があるように感じました。

 筆者は、そもそもはつかこうへいの主宰する劇団の劇団員として、その後はつかこうへいの執筆助手のような形で(「執筆助手」とは本文に書いてありません。ただ彼のやっていたことは多分こんな名前で呼べるような仕事だろうと思いますが)、つかこうへいと長く同時期を過ごした方ではありましょうが、それでも個人の体験だけをもとに描き切るにはかなり無理があり、その足らず部分はどう補っているかといえば、本書の帯の宣伝文には(そもそもどんな書籍にしても、帯の宣伝文ほど出所不明のあおり文はないように思うのですが)、「関係者を徹底取材」とは書かれていながら、どの部分が誰からの取材をもとに構成された記述かの説明がほぼありません。

 つかこうへいの現代日本演劇界における功績を考えれば、本書は、後日つかこうへい研究の第一級資料となる文章かという興味もあって読んだのですが、そうまとめるには客観性に少なくない疑問符が付きそうに思いました。

 しかし、にもかかわらず、本書はとても面白かったです。
 一種狂気の天才ともいえる芸術家(たぶん「芸術家」で間違ってないと思うのですが、そしてこんなエクスキューズをつい付けてしまう才能こそが、つか的なんでしょうが)にほぼ密着して過ごした筆者の青春物語が、様々な有名人の名前の挙がる少々のぞき見的興味も刺激しつつ、1970年代のひとつの青春の姿を描いていると感じられるからです。

 そして「つかこうへい」という人格が、いかに才能豊かでありながらも俗に流れた表現を志し、ある意味ものごとや社会や個人の本音が見えすぎる演劇的視点であったことが彷彿と浮かんでくるにおいて、やはり本書は「正伝」なのか、少なくとも「準正伝」くらいの看板に偽りはないと、私は思い直したのでありました。


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