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漱石没後のあれこれ

 『漱石の印税帖』松岡譲(文春文庫)

 漱石生誕150周年「極私的漱石まつり」第3弾として、前回読んだ漱石の孫娘の親父の本、つまり漱石にとっては娘の連れ合いになる松岡譲の漱石関係エッセイを読んでみました。

 本文中にもそんな話題があるのですが、実はわたくし、何を隠そう漱石の描いた絵を一枚持っていましてね。……ふふ、ふ。
 茄子とキリギリスの絵です。ちゃんと「漱石山人」と名前が書いてあって、印影もあります。……ふふ、ふふふふ。

 ……いえ、まぁ、本当のところを申しますならば、例えば今回のエッセイにはこんな風に書いてあります。

 普通書画屋というと、何だかインチキ商売といったけしからぬ感じを人に与えるのは、表向き大変風流じみた奇麗事であるだけに、それだけ一層皮肉だが、しかし絶対に真物ばかり扱うとなると、多くの書画屋はやって行けないというような妙な皮肉のまわり合わせにならないものでもない。

 さらに、こんな風にも書いてあります。

 (略)それを聞いた他の一人が、そいつは参考に見て置こうと聞いたところへ行って見ると、果して十枚でも二十枚でも、御注文通りいくらでもある。値も一円そこそこの安値。それで値も安い代りには、ものもひどいじゃないかと半畳を入れると、いかもの屋の親父の曰くが振っている。どうせ漱石さんのものを一両や二両で買おうって奴は、物の分かる奴じゃない。そんな奴にゃ真物だって、贋物だって変りはない。値が安くて、名前さえ書いてあればいいんだ。

 ……はは、はは、は。……まぁ、そんなものでしょ。
 わたくしも買った当初から、どーも、漱石にしてはもひとつ品位の感じられない絵のよーだなーと、密かに思ってはいたんですがね。

 というわけで、そんな漱石没後のエピソードがあれこれ書いてあって、わりと面白い随筆集でした。
 いわゆる「漱石山脈」と呼ばれる一連の文人達について、実は私は、なるほど「出藍の誉れ」とはなかなか得難いものなのだなーという認識を、勝手に持っていました。

 そして漱石の亡くなった後の、そんな方々のギスギスぶりについては、あたかも芥川が『枯野抄』で書いたようなイメージで知っているような知らないような状況でしたが、本書には、特に長女筆子と松岡譲と久米正雄について書かれた一文があって、これはなかなか興味深かったです。

 そんな随筆集でした。
 なかなか面白くも、表現者というのはやはり大変だなぁとも思わせる本でした。


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